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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「だめよ! 来るじゃないの!」

さいわい、物売女をとり巻いた人々は、真似の泣きじゃくりをしている女とまだ伸子たちとの関係に注意をむけていない。二三間、現場をはなれると、はじめて素子も自分がひきおこしたごたごたの意味がわかったらしく、腕をひっぱる伸子に抵抗しなくなった。二人は、出来るだけ早足に数間歩くと、どっちからともなく段々小走りになって、最後の数間は、ほんとに駈けだして、ボリシャーヤ・モスコウスカヤの前の通りまで抜けた。気がつくと、一人の身なりのひどい男の子が、かけだした伸子たちのわきにくっついて自分もかけながら、

「エーイ、ホージャ!(ちゃんころ) ホージャ!(ちゃんころ)」

と、囃したててはねまわっている。しかし、ここでは、それに気をとられる通行人もなかった。

伸子たちはやっと普通の歩調にもどった。そして、青く塗った囲いの柵が雪の下からのぞいている小公園のような植込みに沿ったひろい歩道をホテルの方へ歩きはじめた。このときになって、伸子は膝頭ががくがくするほど疲れが出た。力のかぎり素子をひっぱった右腕が、気もちわるく小刻みにふるえた。伸子は泣きたい気分だった。