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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「――つかまらせて……」

伸子の方がぐったりして、散歩の途中から気分でもわるくしたというかっこうで二人は室へ戻った。

帽子をベッドの上へぬぎすて、外套のボタンをはずしたまま、伸子はいつまでもベッドに腰かけて口をきかなかった。素子も並んでかけ、タバコを吸い、やっぱり何と云っていいか分らないらしく黙っている。伸子はまだいくらか総毛立った頬の色をして、苦しそうに乾いた唇をなめた。

「――お茶でも飲もう」

素子が立って行って、茶を云いつけ、それを注いで、伸子の手にもたせた。コップ半分ぐらいまでお茶をのんだとき、

「ああ、そうだ」

素子が、入口の外套かけにかけた外套のポケットから、往きに買った砂糖菓子を出して来た。二杯めの茶をのみはじめたころ、やっと伸子が、変にしわがれたような低い声で、悲しそうに、

「ああいうことは、もう絶対にいや」

と云った。

「…………」

「手を出すなんて――駄目よ! どんな理由があるにしろ……まして悪態をついたぐらいのことで――」

素子は、タバコの灰を茶の受皿のふちへおとしながら、しばらくだまっていたが、

「だって、人馬鹿にしているじゃないか。なんだい! あのキタヤンキって云いようは!」