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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子は、二人きりになって、ますます困惑した。だまったまま、テーブルの上にひろげられている刺繍を片づけはじめた。ゆっくり動いている伸子の上に、素子の視線が釘づけになっている、それを伸子は重苦しい疼痛の斑点のように、自分の肉体に感じた。
とりちらされたテーブルの上が殆んど片づいたとき、素子が伸子にきいた。
「ぶこ、行くんだろう」
きょう三時に来るようにという山上元のことづてをまもって、行くのだろう、という意味だった。
「行こうと思う」
素子の不快そうな、こわい顔におじけづかないように、自分をはげましつつ、伸子は、テーブルのわきに立って、返事した。
「話をしなくて、ごめんなさい」
――しかし、この間、ひとりで山上元に会いに行ってしまったことが、ほんとうの意味で素子にあやまらなくてはならないことなのかどうか、伸子にはっきりしなかった。伸子が、山上元に会って見ようと思いはじめ、それをひとりで実行した、その心もちの過程には、何か伸子だけのひそかな動機――伸子自身にさえ明瞭になっていない動機が熟していたのだった。マヤコフスキーの自殺や、第二芸術座の「チュダーク(変り者)」