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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

であった。伸子がこれまで、トゥウェルスカヤの通りや並木道ですれちがったとき、こっちから行く伸子を目に入れるとにわかに日本人だか中国の人だか区別のつかない表情をよそおって通りすぎて行った日本人らしい人たち。その仲間にはいること以外に、伸子がモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)にとどまっての生活は考えられない。

伸子は、亢奮して来た。自分がモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)にとどまってもいい者として判断されているということ。伸子の心臓はこの申出によって、口からとび出しそうにはげしく波うった。思ってもいないことだった。自分がそのようにみられていた、ということは。――でも、

「わたしに出来ることがあるのかしら」

心配そうに、伸子はいくらか声をおとした。伸子のような者がその仕くみのなかに参加するにしては、山上元という名につながるすべての機構が、あんまり巨大であり、権威にみたされている。

「いくらだってすることはあるさ」

山上元は、ふたたびテーブルの下へ、ずっと両脚をのばした姿勢で、こんどは真正面から、動顛した伸子の、上気して、ほてっている顔を見つめた。