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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「――えらそうに、なにを生意気云ってるんだ。――ぶこはいつだってそうだ。自分の都合のいいように理窟をつける――卑劣さ」
「そうは思わない。だって、あんたがああいう風にからんじまうとき、わたしは、どうしたらいいの?――どうしたら、あなた、気がすむ?」
段々落ちついてものが云えるようになって、伸子は窓を向いていた体を素子の方へ向け直した。
「駒沢のころ、そういうとき、わたしはこわくなって泣いたり、真実を証明したりしました。やっぱり、いまもわたしがそうすればあなたの気がやすまる?」
だまっている素子のまわりを伸子はゆっくり歩いて、背の高い煖炉棚へ部屋靴のつまさきをそろえてもたれかかった。
「――わたしは、もうそうしなくてよ。お互のために――わたしたち、折角いつもは病的なところなんかなくて暮しているのに、こんな時っていうと、まるで突発的に妙になるんだもの――これこそ病的だとしか思えない。わたし苦しくなるし、自分たちが恥しい……」
ちょっと言葉を切って、伸子は羞恥のあらわれた、うす赧い顔で早口に云った。
「わたしたち性的異常者じゃないんだもの。――人間の親密さのいろんなニュアンスを肯定しているだけなんだもの」