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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ね、何をおかきなさるの?」
「小説(ポーヴェスティ)です」
「すばらしいこと! ロシア語でかかれないのはほんとに残念です。本になっていますか」
「わたしはもう幾冊かの本を出版しています」
だが、一体何のためにこういうばからしい会話をしていなければならないのだろう。伸子には訳がわからなくなった。彼女が伸子を迷惑がらしているということをはっきり知らすために、伸子は、
「私に幾冊本があろうと、あなたには同じことです――残念ながらあなたは読めないんだから」
そう言った。
「さあ、もうそろそろねる時間です」
そして、伸子がベッドの中で寝がえりをうちそうにすると、女助医はどうしたのか、
「もうちょっと! 可愛いひと!(ミヌートチク! ミーラヤ!)」
というなり、ベッドのはじに斜かいにかけていた体を、半分伸子の上へおおいかぶせるようにして右手を伸子の体のあっち側についた。
「きいて下さい、わたしはゆうべ結婚したんです」
その瞬間伸子は女助医が酔っぱらっているのかと思った。ウィシュラ・ザームジュ。嫁に行った――そうだとしてこのひとは何故伸子に知らさなければならないのだろう。伸子は枕の上でできるだけ頭と顎をうしろへひき、きめの荒い四角いどっちかというと醜い女助医の顔から自分の顔を遠のけるようにした。