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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
さ、行っといでよ」
片仮名でボタンという字と茶色という字を書きつけた紙片をもって伸子は、トゥウェルスカヤの通りへ出た。そして、衣料品の販売店を見つけ出して、どうにか茶色の大ボタンを買って来た。ちょいとした食糧品の買いものにしろ、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ではいつとはなし伸子のうけもちになった。
「丁度いいじゃないか、ぶこちゃんは、何にだって興味もってるんだから……」
それは、たしかにそう云えたし、素子の教育法は、伸子の片ことに自信をつけた。素子のそういうしつけがなかったら、伸子はモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へついて、たった二週間めに、鉄工労働者のクラブで、たとえ十ことばかりにしろ、ものを云うことなどは出来なかったろう。ВОКСから紹介されてそのクラブの集会に行ったとき、素子も伸子も、自分たちが演壇に立たされることなどを想像もしていなかった。ところが司会者が伸子たちを、その夜集っていた三百人ばかりの人々に紹介した。日本の婦人作家という言葉だけをききわけて、伸子が、
「あら、私たちのこと云っているんじゃない?」
と小声で素子にささやいた。