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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
灰色に乾いた日向のペーヴメントの車どめの石の上に半ズボンの男の子がちょこんと腰かけて、両手の間で何か小さい物をああし、こうしして、しきりに研究中らしくいじくりまわしている。余念のない少年の動作を見おろしているうちに、伸子はいつか川辺みさ子の最期についての暗く凄じい回想から解放された。同時に、まるでそれは人気ないその部屋のどこかではっきり云われた言葉であるような感じで一つの疑問がおこった。どうして川辺みさ子は自分の音楽で世界を征服するなどと、いう気になったのだろうかと。川辺みさ子の生涯が悲劇として終ったあとも伸子はそれを川辺みさ子個人の天才癖の悲惨とだけ思っていた。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)生活の間、そこできく音楽と川辺みさ子の回想は、一度も結びついたことがなかった。――ベートーヴェンの音楽のどこに、いわゆる征服的なものがあるだろう。あるものは、人間の存在にさけがたい苦悩と擾乱の克服ではないだろうか。苦しむ人間の情熱そのものが昇華しようとする過程が嵐のようなとけるようなアダジオとなって新しい生への意欲へと運ばれてゆく。それだのに、何故川辺みさ子はそのようなベートーヴェンの本質が、世界を征服すると思ったのだろう。