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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子たちは、馬車にのって、プラーグの中心地をすこし出はずれたところにある一つのホテルにやっと部屋をとった。それも、一応満員になっているそのホテルで、たった一つだけのこっているという組部屋を。
はじめ着いたホテルが、新興プラーグのビジネス・センターに近くて、設備も近代的をめざしているとすれば、伸子たちが室をとることのできたホテルの気風は、プラーグの優美さをそこに泊ったものに印象づけようとしているらしかった。
李王世子が泊ったことがあるというその組部屋は、ひるがおの花と葉の間に身をおいたような感じの装飾だった。床にしかれたカーペットも壁の絹張りの色もいちように薄みどりの色のニュアンスに調和されていて、天井には、ほんとに露のきらめくひるがおの花びらのような精巧なボヘミアン・グラスのシャンデリアが下から燈火をつつんでいる。寝室には、これもボヘミアらしいレース被いのかかった寝台が並んでいた。日ごろは、閑静なホテルらしいのに、その日はひろくもないロビーに人の出入りがはげしくて、それだのに夕飯の時間になってみると、食堂にはちらりほらりとしか人影がない。ちぐはぐであわただしい空気だった。