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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
博覧会のためにプラーグへ集った男女の旅客たちは、行儀のいいホテルの、タバコものめない正式な食堂では陽気になりきれないというわけなのだろう。
伸子たちは、夕食後、カウンターへよってカルルスバードでは、もうどんな小さいホテルにも空いた部屋はあるまいと聞いて、自分たちの、一晩とまるにしても贅沢すぎて落付けない室へかえって来た。
かげろうの翅のような色につつまれた室の一隅に金ぶちのしゃれたガラスの飾り棚がおかれていた。その中に、美術工芸品として世界に有名なボヘミアン・グラスの見事なカットの杯やカメオのような透しやきの小箱などが飾られている。伸子は、少し古びの見える絹ビロードの長椅子にかけて、
「どうする?」
テーブルのところに立ってタバコに火をつけた素子を見上げた。
「この有様じゃ、何とも仕様がないわね」
チェッコスロヴァキアの工業博覧会は、向う二ヵ月の予定で開催されているのだった。
「わたし、カルルスバードはやめにする」
「どうして……ここまで来ているのに」
「だって。――わかるじゃないの」
大雑踏のカルルスバードで、きょうの騒ぎを幾層倍かにした気骨を折ることを思うと、伸子は体が苦しいようになった。