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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ここも一種の学界みたいなのだろう。先輩後輩の関係やら会員同士にもいろいろと面倒くさい留学生らしい感情があるのだろう。その木曜会のしきたりにとって、伸子のもの云いの簡明率直さはおのずと笑いを誘うようなところがあるだろう。伸子に質問している人が、格式にかかわらず、学問上のことについては若い専門家たちから批評をもって見られている人であるらしい感じもうけた。
血色いい角顔に半白の髭をつけて、金杉英五郎にどこか似た面ざしのその人は、伸子の話から一座に流れたソヴェトに対する好感的な印象を、そのまま人々の胸に沈められることをきらうらしかった。
「医学にかぎらず、すべて学問というものは、学問それ自身として重大な多くの問題をもっているものなんでね。あなたに云っても無理だろうが、まああなたの話は、要するに医学というよりもソヴェトというところの社会状態の紹介さね」
ここにいる学者たちにとって、それだけで価値をみるには足りないのだ、ということを伸子にわからせ、同時にほかのききての自尊心も刺戟しようとするようだった。
「ところで、どうですかな、予防医学なんかの方面は――」
「――予防医学って――結核や流行病の予防なんかのことでしょうか」