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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

しばらく黙って、走っているタクシーの窓から街の風景を見ていた泰造は、不本意そうに、むしろ悲しんでいる語調でぽつんと云った。

「本来なら、こういうことは和一郎がするべきことだのに、あの男は一向動こうとしない。――船の中だって、そうだ」

保がいたら、と泰造は云わないのだった。伸子は、そこに泰造の泰造らしさを感じ、その心によりそった。

「和一郎さんたちは、あの人たちだけで、しばらく離しておいてやる方がいいんじゃないの?」

「或はそうかもしれない」

もう少し何か云いたそうな様子だったが、泰造はそれだけでやめた。

泰造と伸子とは、それから、三四軒、骨董商を見て歩いた。クラシックな趣味の建築家である泰造はルネッサンス前後の家具と陶器に着目した。この日の巡遊記念に、日本の柿右衛門をロココ風に模倣したセーブルの小さな白粉入れを伸子は泰造からもらった。

帰りに、泰造は伸子をつれてフリードランド・アヴェニューにあるホテル・キャンベルへよった。往きのタクシーの中での提案が早速実行にうつされたわけだった。泰造の知人がここに滞在していて、ほめていたということで、どこからどこまでこぢんまりと、行儀よく清楚な雰囲気のホテルであった。