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まぶたのはは
長谷川伸傑作選 瞼の母
長谷川 伸
Read 長谷川伸傑作選 瞼の母 (まぶたのはは) by 長谷川 伸 (はせがわしん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 94,753 characters · 192 screens
――別れの水盃だ。
おきぬ (泣く泣く水をとりに起つ)
太郎吉 ちゃん。死んじゃ厭だ。厭だあ。あああン。ああン。(泣く)
三蔵 (呻きながら太郎吉の頭に手をやる)
おきぬ 水だよ。水を持ってきたよ。(柄杓を差出す)あたしもやくざ渡世の男を亭主に持った女だ。未練に泣きはしないけど。――これから先、どうしたらいいのだろう。
三蔵 おきぬ。太郎吉を頼む。身重のお前だ。――不憫だなあ。(柄杓の水を飲もうとする)
おきぬ 待っとくれ。水を飲むとそれっきりだというから。太郎坊や、おとっちゃんの顔をよく見て覚えとくのだよ。お、大きくなっても忘れないようにね。
太郎吉 ちゃん。おいらの顔もよく覚えといてくんなよ。
三蔵 うン。死にたかねえが、仕様がねえさ。(柄杓の水を再び飲もうとする)
おきぬ だ、だれだ。(太郎吉を庇い、夫を庇って起つ)
三蔵 また来やがったか。(もがく)
時次郎 (入口からはいってくる)あっしでござんす。信州の旅にん時次郎でござんす。一旦出て行くことは出て行ったが、子供の泣き声が耳について、うしろ髪をひかれるようで、とうとう引返してきたんでござんす。
太郎吉 おっかあ。