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まぶたのはは
長谷川伸傑作選 瞼の母
長谷川 伸
Read 長谷川伸傑作選 瞼の母 (まぶたのはは) by 長谷川 伸 (はせがわしん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 94,753 characters · 192 screens
〔大詰〕
第一場 同じ宿の安泊り
まだ袷と単衣だけでしょう。
時次郎 何をいうのだ。沓掛の時次郎は日本中飛び歩いた男だ。寒中真ッ裸でもくらせる奴さ。さ、行こう。(行きかけて立ちどまる)
おきぬ (振返って)どうかしたんですか。
時次郎 え。おきぬさん、産月はいつだね。
おきぬ 三月――か、四月頃です。
時次郎 花の咲く頃だなあ。それまでにちっとは貯えをしてえものだ。
おきぬ (しょんぼりと佇む)
時次郎 は、はは。どうにかなるさ。(太郎吉の頭を撫で)桜の花が咲く頃に、お前に弟か妹が出来るんだぜ。死んだちゃんの子だからお前に似て可愛いだろうよ。
太郎吉 おらあ知ってるよ。
時次郎 知ってるのか。隙さねえ子だぞ。
太郎吉 赤ン坊が小父さんの子だといいんだけど。そうすりゃ小父さんなんていわねえや。おとっちゃんといえらあ。
おきぬ (急所を突かれて狼狽し)まあ、この子は。悪いことばかりいって。
時次郎 (笑い紛らせ)おきぬさん、冗談は抜きにして、稼ごう。弾いて貰おうか、俺の故郷の追分節。小諸出てみよ浅間――。
おきぬ え。(涙ながら三味線をひく、三人とも寒げに去る)
〔大詰〕
第一場 同じ宿の安泊り
奥に位置する汚ない座敷。