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まぶたのはは
長谷川伸傑作選 瞼の母
長谷川 伸
Read 長谷川伸傑作選 瞼の母 (まぶたのはは) by 長谷川 伸 (はせがわしん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 94,753 characters · 192 screens
第三場 荒川堤(引返)
(廊下へ出る)
お登世 (泣き崩れる)
第三場 荒川堤(引返)
前の場の夜が明けかかる頃。戸田の渡しに近き荒川沿岸の雨後。
向うに堤――堤の下はところどころ立木。穂の出た芒が一杯に乱れている。ただ正面奥は左から右へ渡し場の通路になっているのと、左寄りから奥へ思い切って斜めに径がついているのとで、そこだけに芒がない。左寄りに水溜があって、その附近にも芒がない。
船夫 (一番の渡船を出しに行く戸田の渡しの常雇い、水棹を担いで径を通る)
船頭歌が、どこからか聞えてくる。余り遠くない。
船頭歌 荒川船頭衆と、わたしの恋路。梶をとりとり、風任かせ。
提灯をつけた駕籠が正面の路を渡し場の方へ急いで通る。
駕丁は三人。
おはま (その駕籠に乗って、心も空に焦慮っている)
船夫 (駕籠を見送り、正面の路に入りて渡し場に去る)
もう一梃、駕籠が正面の路を同じように急ぎ通る。
お登世 (駕籠に乗り、心を川向うに飛ばしている)
善三郎 (提灯を提げ、お登世の駕籠に付いて走って通る)
船頭歌が前よりは少し近く聞える。
船頭歌 春は世に出る、草木もあるに、わたしゃ枯れ野のきりぎりす。
素盲の金五郎、すわといえば直ぐに立つ軽装を、巧みに合羽で糊塗している。