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まぶたのはは

長谷川伸傑作選 瞼の母

長谷川 伸

Read 長谷川伸傑作選 瞼の母 (まぶたのはは) by 長谷川 伸 (はせがわしん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 94,753 characters · 192 screens

Aozora Bunko

そら、あ、あの亀久橋の文太郎の奴。

政吉  (ぎょッとし、危険を感ずる)

徳之助 どういう訳だか、あいつ、この土地に来ているんだよ。あいつの国はここだったと見える。

おなか えっ、あの悪者が。まあ。

徳之助 貰った水も抛り出し、急いで駈けて帰ってきた。さあ行こう、あいつに見付かったら、お前の身の破滅だからねえ。

おなか (徳之助の腕に縋り)逃げるといっても、わたしはこんなに意気地がないし。どう、どうしましょう。

政吉  (早速の隠れ場所と、小さき宮の後に潜む)

徳之助 根かぎり逃げるより他はありゃしない。さ、一足でも先へ逃げのびよう。

文太郎 (追いかけ来たり)さあ見つけた。逃げられるものかい。(徳之助を突き倒し、おなかの手首を掴む)それどうだ。この辺の田舎目明しとは訳が違うぞ。

おなか (身を悶え)とうとう、こいつの手にかかった。もう――もう駄――駄目になりました。(泣き伏す)

徳之助 文太さん、お前だって少しは情けをご存じだろう。おなか、気を落すには当らないよ。文太さん、弱い女に手荒い真似はしないでください。

文太郎 手荒にしてもいい筋があるのだ。しかし、ここからは、越中にしろ、美濃にしろ、また木曾へ抜けるにしても、街道といえばお定まり、逃げたところで袋の中同然だ。