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まぶたのはは
長谷川伸傑作選 瞼の母
長谷川 伸
Read 長谷川伸傑作選 瞼の母 (まぶたのはは) by 長谷川 伸 (はせがわしん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 94,753 characters · 192 screens
政吉 ああっ。手を放すな文太。(刀を抛つ)今度沈んだら命がなかろう。確りつかまってろ。(切れた捕縄を投げて)さあ、そいつに捉れ――あがって来い。
文太郎 (縄を掴み)俺を、俺を助けるのか。
政吉 俺あ深川で、餌差屋を叩っ殺したんだ。だから縛られよう。
文太郎 えっ。(助け上げられる、疲労している)
政吉 文太、俺あグラグラと気が変ってならねえ。――お処刑になりゃ、きまりがつくだろうよ。
文太郎 俺はたった今、水の中で、苦しみながら死にかかった時、頭の中へ稲光みてえにキラキラと、いろんなことが思い出されたんだ。俺の気持は、がらりと変った。(ぐったりとなる)
政吉 弱ってるんだなあ。大分、水を飲んだんだろう。やあ、聞える、おう聞える、(岩の角に行き、そっと窺く)二人ともにもう見えねえ、森のなかへはいったと見える。そうだ、見るじゃあねえ。いくら見たとて――ありゃあ赤の他人の空似なんだあ。(引かえし来たり)文太、手前の元気が出てくるまで、俺あここで待っていて縛られてやるぜ――おう、また聞えてきた。胡弓の音も、唄も聞える、ありゃ確に、おさんの声だ。――はははは、なあンだ、松の枝を吹く風の声だったか。