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まぶたのはは
長谷川伸傑作選 瞼の母
長谷川 伸
Read 長谷川伸傑作選 瞼の母 (まぶたのはは) by 長谷川 伸 (はせがわしん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 94,753 characters · 192 screens
片脇に一子太郎吉が寝ている。
三蔵 (荷づくりの手が誤って瀬戸物を引ッかけ落す。壊れて音がする)
おきぬ あッ。(荷づくりの手をやめ、怯える)
太郎吉 (目をさまし)おっかあちゃん。
おきぬ あいよ。(傍へ寄り)どうしたい。おっかちゃん、ここに居るよ。(添い寝をする振りをして)坊やはいい子だ、ねんねしなあ。
三蔵 (入口の土間に下りそっと外をのぞく)――だれも居ねえ。
おきぬ 坊やはいい子だ。ねんねしなあ。
三蔵 坊主は寝たか。(元の処へきて荷づくりにかかる)
おきぬ ああ寝ちゃった。ご覧、子供は罪がないねえ。
三蔵 (太郎吉の寝顔をのぞき)うむ。笑ってやがらあ。
おきぬ 夢を見てるのだろう。(荷づくりにかかり)考えると厭になっちまう。
三蔵 今更どうも仕方がねえさ。
おきぬ 女房子をつれての旅にんか。お前さん。(涙声になり)あたし達の行く先々は、嶮岨な路だねえ。
三蔵 そうだとも、一ト足踏み出しゃ、渡る世間はみんな嶮岨な路で出来てるよ。なあおきぬ、これから先は苦労ばかりだ、覚悟をちゃんとして置いてくれよ。
おきぬ わかってるよ。大丈夫さ、他国でどんな憂き目をみても、なあに親子三人揃ってりゃ、苦労はしのげるだろうさ。