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まぶたのはは
長谷川伸傑作選 瞼の母
長谷川 伸
Read 長谷川伸傑作選 瞼の母 (まぶたのはは) by 長谷川 伸 (はせがわしん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 94,753 characters · 192 screens
男の声 (遠く)鳥も通わぬ、嶽山なれど住めば都の、懐かしさ。
女の声 (近く、哀切な声)飛騨の高山、高いといえど低いお江戸が、見えはせぬ。
飛騨高山の宮川畔の一部――前に同じ場所――秋晴れ麗かな日。
宮川に沿う岸の家々は京都風に近き建築にて、板の屋根に丸石を置く。
処々に樹木がある。
遠く見える城山には少し紅葉が混っている。
手前の河岸には、酒造家の白壁土蔵が何戸前か並び、小さな社が台石の上に祀られ、前には低き木柵、柵の中に松の木を一本植えてある。その外れに酒造家の入口。
樽をつくる音が長閑に聞えてくる。
酒つくり宮の花の若い衆作蔵、百松、高太郎、小僧、樽つくりの職人、町の人、在の人など立ちつ踞りつ、若い衆の棒押しを見物している。
小僧が一人飛んで来て、顔に両手の指をかけ、醜面をつくり、老番頭が来たと合図する。
急に働く者、立去る者などがある。
老番頭、帳面を披き見ながら来たる。人々を一瞥して去る。一同、軽くほっと息をして、後を見送る。
百松 叱言をいわれなかったね。あれで柄になく声がいいのだから人は見掛けによらないものだね。
高太郎 だれだってあのおやじが、高山一のいい声だなんて、本当にしやしないよ。