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まぶたのはは

長谷川伸傑作選 瞼の母

長谷川 伸

Read 長谷川伸傑作選 瞼の母 (まぶたのはは) by 長谷川 伸 (はせがわしん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 94,753 characters · 192 screens

Aozora Bunko

いいかい。(去る)

政吉(二十八、九歳)飛騨風俗、江戸を出て逃げ歩き、交通不便の飛騨の久々野に隠れ、三里余りの高山へ、きょう用足しに来ている。

政吉  (自殺したおさんに生き写しの姿の流浪の女を見つけ、前に一度跟けて歩いたが見失い、ここまで来て再び見つける。おなかの傍を通り過ぎたが、おなかは俯むいていて顔が見えぬ。立ちどまり凝視する)

おなか (目眩が鎮まったので、川を見る)

政吉  (おなかの顔を見て、我を忘れ)おっ、おさんだ。おさん、俺だ。(はっとして逡巡する)

おなか え。(気味悪く思い、助けを空しく求め、後退りする)

政吉  あ、もし。だしぬけだったので、さぞ肝を潰したでしょう、勘忍してくださいよ。

おなか え。いいえ。いいのでございます。

政吉  ほっ、お前さん、江戸ですね。

おなか ええ。そういうあなたも、この辺の人とは違ったお言葉。

政吉  ええ。あっしは江戸の深――なに江戸で永らく奉公していました。

おなか (答えず、眼は怖れと警戒とで油断がない)

政吉  (恋々として話をしたがる)つかぬことを伺いますが、お前さん、こっちには、何か縁故があっておいでなすったか。