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まぶたのはは
長谷川伸傑作選 瞼の母
長谷川 伸
Read 長谷川伸傑作選 瞼の母 (まぶたのはは) by 長谷川 伸 (はせがわしん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 94,753 characters · 192 screens
成れなかったらわし、どうしていいか判らなくなるなあ。
お蔦 国はどこさ。
茂兵衛 上州だ。勢多郡の駒形という処だ。前橋から二里ばかりの処さ。
お蔦 成り損ったら田舎へ帰って、鋤鍬を握るさ、家はお百姓なんだろう。
茂兵衛 家か――家は灰になった。
お蔦 焼けちゃったのかい。それで今、家がないの。
茂兵衛 無い。
お蔦 親兄弟が田舎にいるんじゃないのか。
茂兵衛 わしは一人ッ子。おやじは何処かへ行ったまんま、二十年も便りがない。どこかでどうにか成ったんだろう。
お蔦 お母さんだけいるんだね。
茂兵衛 ああ居るよ。駒形の上広瀬川が見える処に。
お蔦 なあんだ、家があるんじゃないか。
茂兵衛 なあに、そこはね、お墓さ。
お蔦 (急にホロリとなる)
茂兵衛 姐さんはここのおかみさんですか。
お蔦 酌とり女さ。白粉で面の皮が焼けてる阿婆摺れさ。
茂兵衛 阿婆摺れだって、そんなことはない、わしはそう思わない。(頭をさげて行きかける)
お蔦 お待ちよ取り的さん。お前、れっきとした親類はないのかえ。
茂兵衛 無いこともないが、わしに構ってくれる者はない。
お蔦 みんな気を揃えて薄情でいやがるんだねえ。