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Japanische Klassiker mit Furigana

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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme

Aozora Bunko

袖の蔭から、そっと、萩の餅を一盆入れてくれた。煙草より、酒より、甘い物が、欲しいところだった。雲霧は三つの萩の餅を、夢中で食べて、

「――誰からの差入れでございましょうか」

「戸塚の宿で、首を縊るところを、助けて貰った婆といえば、分るといって置いて行ったが」

「助けた人間は、多勢あるので、どうも思い出せませんが……」

舌に残る甘い唾を嚥みながら俯向いた。

「なあ、雲霧、人間は善いことをして置きてえものだな」

「まったくで」

「俺も、十七年も牢番をしてるが、おめえみたいな、人気のある泥棒は、はじめて扱った。――お処刑の日にゃ、大変な人出だろうという噂だぞ。体を、大事にしろよ」

「有難う存じます」

言葉さえ、彼はだんだん人格的に気をつけた。一日、膝も崩さない。生き身のまま、神になって行くような気がして来た。

「俺は今自雷也だ」

彼は、自分の達願を信じ、自分の偉さを信じた。――だが、そこの伝馬牢へ移ってから七日目の朝、

「しまった!」

と、雲霧は、何を思い出したか、ふいに叫んだ。

夜明け交代になる牢番の女房が、弁当でも、長屋へ運んで来ているのであろう。――嬰児の泣き声が、彼の耳を、つよく衝った。