Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
八寒道中
一
一
笛は孤独でたのしめる。――いつか旅で笛を吹く心境のふしぎな陶酔の味を知って、今では、安成三五兵衛の腰には、大小と印籠のほかに、袋にはいった一笛がたばさまれて、かれの旅に離れぬものとなっていた。
それは、桑名の城下で、すすけた古物屋の店ざらしの中から見つけ出した笛だった。値はお話にならないくらい安かったが、手がけてみると逸品で、誰か、名人の手になった作にちがいない。
彼は、もうその笛を、三、四年も持ち馴れていた。
ただすこし気に染まないのは、竹管に傷つけてある笛の銘だった。――沈め刀に青漆をさして、小さく、
「八寒嘯」
と、彫りつけてある。
どうもそれが彼には、おそろしい冷たさに感じられてくるのだ。音色に鬼韻のあるのは好ましいとさえ思うが、八寒嘯という銘の意味を酌むと、なにもかも白い氷に凍てている天地が想像されてならない。
そのくせ、当の安成三五兵衛その者は、どういう人かと見ると、これはまた、痩身衣にも耐えずという風采で、眼ざしは執着のねばりを示し、眉は神経質に細くひいて、顔いろだけが長い旅に焦けているが、その唇は冷やッこくすねて、哄笑も微笑も忘れているかに見える。