Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しんしゅうこうけつじょう

神州纐纈城

国枝 史郎

Lesen Sie 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 188.242 Zeichen · 380 Bildschirme

Aozora Bunko

そうしてじっと俯向いたが、静かに静かに首を上げると、卒然として云ったものである。

「俺はまた人を斬りたくなった!」

金襴の垂れ布を掲げると隣りの部屋へよろめいて出た。

「月子殿!」と隣りの部屋から呼ぶ。「お神水をくだされ。顔を直してくだされ」

月子は棚の前に立っている。そうして彼女は項垂れている。

「ああ妾の造顔術もろくなことには使われない」

轟々轟々と大河の音が、横穴の奥から聞こえて来る。

「あの大河を遡れば富士教団へ行かれるそうな。光明遍照の富士教団へ」

「月子殿」と隣室で呼ぶ。「お神水をくだされ。顔を直してくだされ」

「あの男も可哀そうだ。憐れんでいい男なのだ。……あれは本当の悪人ではない。まだ本当の悪人とは云えない」

「顔を直してくだされ。お神水をくだされ。どうぞ私を眠らせてくだされ」だんだん声が弱々しくなる。

「本当の悪人と云う者はあるいはこの世にはないのかも知れない。……妾はこれまでここに籠って幾十人幾百人、いろいろの人のいろいろの顔を、いろいろの手法で刻んだけれど、これぞ本当に悪人というそういう顔を見たことがない。舞楽面にも能面にもない全然新しい悪人の仮面――そういう仮面を刻みたいのが妾の心願ではあるけれど、この妾の心願はとげられないのではあるまいか」