Japanische Klassiker mit Furigana
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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Lesen Sie 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 188.242 Zeichen · 380 Bildschirme
水に沈み水に浮き、パッと飛び立ち颯と下りて来る、白い翼の水禽以外、湖面に蠢めく何物もない。岸に近く咲いているのは黄色い水藻の花である。湖の面は油のように平らにトロリと湛えているが、しかし玲瓏と澄んではいない。底に無限の神秘を秘め、表面に不安の気分を現わし、どんよりと拡がっているばかりである。
と、船頭が声をかけた。――
「鳥刺殿、鳥刺殿」
「オーイ」と甚太郎は顔を上げる。
「ハイ、逢いましてござりますよ」
「おお逢ったか? そのお侍に?」
「ハイ、逢いましてござります」
「で、どこで見掛けたな?」
「ちょうどそこでございます。その岸の辺でございます」
「そうしてどこへ行ったかな?」
「湖を渡って向こう岸へ」
「それじゃ俺も行かずばなるまい」
「船にお乗りなさりませ」
「おおその船へ乗せてくれるか」
「お安いご用でございます」
ギーと船が寄って来る。
甚太郎はムックリ起き上がり、ヒラリと岸から船へ飛んだ。船は大きく一つ揺れたが、そのままツツーと帆を上げると、グルリ船首を沖へ向け、辷るがように駛り出した。
見る見るうちに姿小さく、水脈を一筋残したまま、船も人も朦気の中へ、朦朧として消え込んだ。