Japanische Klassiker mit Furigana
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パンドラのはこ
パンドラの匣
Lesen Sie パンドラの匣 (パンドラのはこ) von Dazai Osamu (太宰 治) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 192.644 Zeichen · 386 Bildschirme
役者は、いやだ! ほんの一瞬間の事であったが、のた打ち廻るほど苦しかった。いっそ発狂したい、と思っているうちに、その苦しみが、ふうと消えて、淋しさだけが残った。なんじら断食するとき、――あの、十六歳の春に日記の巻頭に大きく書きつけて置いたキリストの言葉が、その時、あざやかに蘇って来た。なんじは断食するとき、頭に油をぬり、顔を洗え。くるしみは誰にだってあるのだ。ああ、断食は微笑と共に行え。せめてもうお十年、努力してから、その時には真に怒れ。僕はまだ一つの、創造をさえしていないじゃないか。いや、創造の技術さえ、僕には未だおぼつかない。
さびしく、けれどもミルクを一口飲んだくらいの甘さを体内に感じて風呂から出た。
団長、市川菊之助の部屋へ挨拶に行く。
「や、おめでとう。」と言われて、うれしかった。たわいのないものだ。風呂場の暗い懊悩が、団長の明るい一言で、きれいに吹き飛ばされた。木挽町で初舞台を踏むという事は、役者として、最もめぐまれた出発なのかも知れない。お前は幸福なのだ、と自身に言い聞かせた。
以上は、わが、光栄の初舞台の記である。
家へ帰って、午前一時頃まで、兄さんを相手に、夢中で天体の話をした。