Japanische Klassiker mit Furigana
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パンドラのはこ
パンドラの匣
Lesen Sie パンドラの匣 (パンドラのはこ) von Dazai Osamu (太宰 治) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 192.644 Zeichen · 386 Bildschirme
性慾の、本質的な意味が何もわからず、ただ具体的な事だけを知っているとは、恥ずかしい。犬みたいだ。
十二月二十七日。水曜日。
晴れ。名古屋の公演も終って、今夜、七時半に東京駅に着いた。大阪。名古屋。二箇月振りで帰ると、東京は既に師走である。僕も変った。兄さんが、東京駅へ迎えに来てくれていた。僕は、兄さんの顔を見て、ただ、どぎまぎした。兄さんは、おだやかに笑っている。
僕は、兄さんと、もうはっきり違った世界に住んでいる事を自覚した。僕は日焼けした生活人だ。ロマンチシズムは、もう無いのだ。筋張った、意地悪のリアリストだ。変ったなあ。
黒いソフトをかぶって、背広を着た少年。おしろいの匂いのする鞄をかかえて、東京駅前の広場を歩いている。これがあの、十六歳の春から苦しみに苦しみ抜いた揚句の果に、ぽとりと一粒結晶して落ちた真珠の姿か。あの永い苦悩の、総決算がこの小さい、寒そうな姿一つだ。すれちがう人、ひとりとして僕の二箇年の、滅茶苦茶の努力には気がつくまい。よくも死にもせず、発狂もせずに、ねばって来たものだと僕は思っているのだが、よその人は、ただ、あの道楽息子も、とうとう役者に成りさがった、と眉をひそめて言うだろう。