Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
「こんな所に、好きな人と、暮していたら」
「お稲さん、おめえ、いつまでも、いてくれるだろうな」
「嫌じゃないこと。私みたいな女」
「勿体ねえ」――百は真面目にそういって、
「おめえこそ、嫌なんじゃねえか、こんな貧乏鍛冶屋」
「でも、元は、刀鍛冶でしょう」
「おれだって、一生涯、馬の足の裏ばかり焼いちゃいねえよ」
「すぐ、何かというと、貧乏貧乏っていうけれど、こういう黒い家に、かえって、お金ってものは、あるもんですとさ」
「いや、金はない。金はねえ……」
「あんなに、かくしてばかりいて、ホ、ホ、ホ、ホ……。そのお金のない人が、よく大楽寺の入札にぽんと百両も」
ふいに、野薔薇の中へ、顔でもつッこんだような、強い香いに、百は咽せた。お稲の手を、首すじに感じて、百は、あらい動悸と、熱い血に、眼がまわって、
「ど、どうするんだい、おらを」
「じっとしていらっしゃい。お坊っちゃん」
「よせやい、おらあ鍛冶屋だ。そんなことをいわれると、くすぐってえ」
「あたしは、好きさ」
「なにが」
「うぶな人が――」と、頬へ頬を押しつけて、
「もうよしましょうよ、二人の仲で。――金の話なんか水くさい」
「そ、そうだとも」