Japanische Klassiker mit Furigana
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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Lesen Sie 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 188.242 Zeichen · 380 Bildschirme
の表情が明るく暗く変化した、今、一つの羅漢の眼が、夢見るように閉ざされた。と、同時に法衣の襞が、一筋白く浮き出した。しかし次の瞬間には、閉ざされた眼が仄かに開き、その代り法衣の襞が消えた。しかしその次の瞬間には、香炉から立っている煙りの筋が、匂わしく軟かく浮き出した。
船はゆるやかに巡って行った。
船の進むに従って、千体仏の数々は、それを見送り見迎えた。
仏が刻まれている限りは、刻んだ人がなければならない。では無人のこんな境地にも、住んでいた人があったのだろうか? 誰が住んでいたのだろう?
数百年のその昔、役ノ行者がここに住み、日夜不断に鑿を揮い、岩へ仏を刻んだのであった。
人の知らない暗黒世界で、人に知られず努力した跡が、千体仏となって残ったのであった。
それは信仰の所産であった。
同時に意志の所産でもあった。
自己完成と衆生済度との、渾然融和した象徴でもあった。
とまれそこに厳然と千体仏は刻まれていた。そうしてそこは無人境であった。人の訪わない地の底であった。今、小船が流れ寄った。船の底には人がいた。しかし理性ある人間ではない。船は間もなく流れ去るだろう。