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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

二 この世の旅のはじめに

どんなおもしろそうな話や笑い声がまくらもとに起ろうとも、君はいっこう平気なもので、やがてひとり高いびきでした。これはちょっとほかのものにできないことでしたが、君にはそういう「きまり」のいいところがありました。君の雷さまは、いつでも自分でこうと信ずるところから鳴り出すようでした。声の太いことも学校じゅうで評判でしたこの松浦君、明治学院を卒業してから米国に留学して、かの地の大学で工科を修め、自らハンマーを手にして機械の扱い方をも実地に研究して帰りました。後には東京浅草の蔵前にあった高等工業学校の先生にまで進んだ人です。

二 この世の旅のはじめに

この世の旅のはじめに、わたしはいくたりかの年とった人に会いました。

その中にはもう髪の白い翁のような人もありました。わたしはまだ一足踏み出したばかりで、年は若し、経験というものも少なかったのです。そんな年ごろに、思いがけなく会うことのできた人たちです。どれ、その中から二三の年とった人のことについて皆さんにお話ししましょう。もっとも、わたしの会った老人は、そう物を教えたがらないほうの人たちでしたが、それでいて教えられることはかずかずありました。