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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

わたしが初めてあの刀鍛冶を知るようになったのも、その時からです。聞いてみますと、来助老人はまことの刀鍛冶らしい人で、そんな人が湖水のほとりにかくれているのもゆかしく思われ、どうかしてわたしはその人に会ってみたいと思うようになりました。

当時は刀鍛冶で妻子を養うこともできないような時であったといいます。それで妻子を養おうとするには、どうしても古刀の「にせもの」を作るよりほかにその日の暮らしようがありません。当時、はぶりのいい刀鍛冶という刀鍛冶はみな、そういう「にせもの」を作って売っていたといいます。来助老人はそれほど刀の道のすたれたのを悲しみまして、草ぶかいいなかに引きこむ気にもなったのでしょう。刀鍛冶としてその道に一生をささげるためには、妻をも持つまい、子を持つまいという、そんな決心にも至ったのでしょう。百姓のくわやかまを打ちながら、三十年もじっとしんぼうしているようなこともそこからはじまってきたのでしょう。聞けば聞くほど、わたしもたずねて行ってみたくなったものですから、そのことを茶丈のむすこに話したところそんならいっしょに行ってあげましょうと言って、こころよく引き受けてくれたのです。