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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
善意の敵
しかし、その後、いつまでも、白洲は人影にみだれ、騒然たる気配の中に、お袖の叫び声がやまなかった。しかしそれも悲痛な泣き声に変り、やがて揚屋路地の方へ引っ立てられて、程なく糸のように遠くなって消えた。
善意の敵
暁に就寝して、目をさましたのは、午近くであった。
越前守は、熟睡した。
嗽い、食事、着服などをすまして、すぐ役部屋に臨む。
ここに坐ると、所内の空気が、すぐわかる。
今朝の奉行所内は、ただならぬ動揺をもっていた。中に、幾つかの部屋は、氷室のように、しいんとしている。
小林勘蔵、山本左右太、市川義平太など、それぞれのいる役部屋だ。
奉行の周囲にも、一般の公事訴訟の事務は山積している。同様に、各与力部屋も、忙しいはずだった。事件は決して、お袖のこと一つではない。
「勘蔵を――」
と、越前守は、まず目安方の彼をよんで、今日の処理すべき日程を聞き、程なく、平常のように白洲へ出た。
幾つかの、裁決をすまし、午後、独りで茶をたてて、静かに一ぷく服んでいると、医師の市川楽翁が、訪ねて来た。
「来たな……」と、思いながら越前守は、老人の坐るのを待った。
「お奉行。