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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

幸福人

やがて嫁

幸福人

あの座敷に寝ころんで見たら、房総の海も江戸の町も、一望であろうと思われる高輪の鶉坂に、久しくかかっていた疑問の建築が、やっと、この秋になって、九分九厘まで竣工た。

お茶屋でもなし、寺でもなし、下屋敷という造りでもない。一体、どんな大家族が住むのであろうと、下町では、話題になっていたが、さていよいよ、引っ越しの当日、ここへ移って来たものは、痩躯鶴にも似たる老人が、たッた一人。

尤も、召使いは、四、五人ほど来たらしいけれど、荷物と言っては、古びた書箱と机と、いと貧しい世帯道具が一車、ガタクラと、その宏壮なる新屋敷へはいったのみである。

孤独な、老い先のない身で、こんな大きな建築をやって、彼は一体、何が満足なのだろう。単なる、普請狂とも思われない。

彼は毎日、家のまわりを、ひとりで逍遥して、独りでニヤニヤしていた。そういう時の彼の笑い顔は、実に柔和で、明るいかがやきが溢れている。人の性格や境遇が、その時々に依って、ありのままに人相にあらわれるものならば、彼は現在、よほど幸福であるにちがいなかった。

やがて嫁

「おう! これや初客じゃ! 富武五百之進殿が、初客にござったとはかたじけない。