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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

愛涙燦爛

やがて程なく、夜明けの六刻が鳴るとたんに、郁次郎は奉行所の牢獄の前で斬られるであろうことを心のうちで、待っているのだ。

それは、間接の刺し殺えになる。羅門は、そう計っているのだ。そうに違いない! これは一大事だ。

老先生は、居たたまれなくなった。

「羅門、その話は、いずれ白洲で訊くといたそう」

と、言い放って、立ち上がった。

「あっ、しばらくッ」

と、顔を上げたとたんに、羅門は、つつつと、老先生のそばへ摺り寄って――

「おのれッ、老耄」

と、前差の短刀を、抜くがはやいか、老先生の脾腹を目がけて、柄も、拳も、突き通れと、刺し込んだ。

愛涙燦爛

「ウームッ……」

と、老先生の苦しげな絶叫が、血しおと共に、障子を震わした。

「あッ――お父様が」

花世がさけんだ途端に、夜叉のように、血刀を持った羅門が、

「えいッ、汝も」

と、彼女へ向って、躍って来た。

「出合え!」

「羅門を召捕れ」

すぐ隣室には、万一の場合にと、七、八名の武士が詰めていたのにこの不覚だった。武士たちは、八方から、どかどかと、羅門へ集った。そこから、再び血が飛んだ。二人ほど仆れるのを見て、羅門は発狂したように、刀を振り廻して、大広間へ出た。