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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
黄門公下山
一目、その男を見ると、耀蔵はまた、愕然として、
「やっ、この男は、江戸にうろついていたあの唖聾じゃないか」
「そうだ。吾々は、名も分らないので、唖聾と呼びつけていたが、今日では、彼の名は、岩松ということが分った」
「岩松?」
「そうだ。そしてこの岩松こそ、実に、そこにいる作兵衛爺の伜であった。――生れつき愚鈍のために、何者かに強迫されて、江戸くんだりまで、連れて行かれ、つい五、六日前、神隠しに遭ったように、ボンヤリと、この小屋へ戻って来たのだ」
「じゃ、矢張り、悪人たちの手で、傀儡に使われたのだろう。しかし、そのわが子を、作兵衛は何でこんなに窮命するのか」
「作兵衛は、この山の主といわれる正直者だ。不正なことは大嫌いな頑固者。だから、わが子の岩松が、悪人どもと何かしたのではないかと見て、三日三晩、この薪小屋に縛りつけて、何もかも白状するまでは許さない。で、とうとう、唖の岩松も、知ってる限りのことを、爺の前で懺悔してしまった」
「待ってくれ、岩松は唖で聾。どうしてそんな白状をしたり、訊ねたりすることができるのか」
「それは、作兵衛爺だけには出来る。なぜと訊くのも野暮ではないか。