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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
逃げる夜雲雀
オ、波越も横丁から出て尾けて行った。あのすがたでは唖も気がつくまい」
と、少し安心していたが、そのうちに何を見て驚いたのか、
「ややっ!」
と、東儀与力は絶叫して、そこから辷り落ちそうになった。
逃げる夜雲雀
彼が、愕然としたのは何だろうか?
東儀与力として、それを驚かずにいられるものではない。なぜかならば、不意に牢を出されて、夢みるように歩いてゆく唖男の影が、ひろい草原を斜めに抜けて、向うの片側町の灯を見ながらのろのろと進んでゆくとすぐに、頭巾をかぶっている一人の女が、すっと、草むらから伸び上がったのである。
そして、ちょうど近所に住む者が、買物にでも出るように何気ないさまをして、唖男のそばを摺り抜けて、彼の背中へ、手でもふれようとしているらしいが、屑屋と非人の眼が光っているので、怪しまれてはと、しきりに苦心をしているらしい様子。
そのうちに、ひょいと振り顧って、塀の上から見送っている東儀与力の首に気がつくと、いかにもぎょッとしたように、小走りに横へ駈け出したのである。
オオその夜目にもわかる白い顔よ。
きょうもきょうとて鶉坂の老先生の庭で、ちらと見たあの花世にそっくりな輪廓だ。