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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
生きてる佐渡平
なお細かい手配りや注意については、羅門塔十郎が剃刀で断つように、きびきびと、抜け目なく、頭脳のいい指図をした。
生きてる佐渡平
「ゆるせ」
軒の紺暖簾が卸されてから間もない宵のうち。
佐渡平の店は、大戸をおろして、店のひとみ障子の潜りが二枚だけ、黄いろい灯を往来に映していた。
東儀与力はずっとはいった。
「内儀はおるか」
「どなた様でござりましょうか」
――と店の者。
「八丁堀の者じゃ。東儀三郎兵衛」
「あ、お見それいたしました。……まず、どうぞこちらへ」
と、帳場のわきへ、座蒲団をすすめる。
「内儀に会って、ちと、密談したいことがあって罷り越したのじゃ。取次いでくれい」
「それはどうも、わざわざ、恐れ入りまするが、実はお内儀様は、昨日、ご親類の老人を連れて、相州の塔の沢へ、入湯にお出ましになりまして……しばらくはその」
東儀は眉をひそめた。主人の佐渡平が非業な死を遂げてからまだ間もないのに、その妻が入湯に行くなどとは、不貞とも不埒とも、言いようのない悪妻だと憤った。
その顔いろを、畏る畏る仰いで、店の者は、
「何か、ご用の筋がございますならば、奥に番頭もおりますゆえ、すぐにこれへ」