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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

鮑売り

「どうしても、言わねえな」

「あ、おら、義理がてえから」

「何を言やがる」

繁のふり上げた拳が、ぐわんと、安の横鬢にひびいた。

「野郎」

安のこぶしは、繁の鼻を突いた。

「やったな」

「やったとも」

駕屋だまりの羽目板には何本もの、艶の出た舁き棒が、立てかけてあった。それを持つと、繁は、九紋龍のように、躍り出して、

「さ、出てこい」

「おッ、へどをつくな」

安も、その一本をふりかぶって、魯智深みたいに、往来へとび出した。

と、たまりの軒先に、最前から一挺の駕がおいてあった。駕のうしろに、江の島土産の貝細工や漬物樽が下げてあるから、この宿で、一息いれて、仲継ぎの人足が来るのを待ち合せているらしい。――その駕の中で、声がした。

「両人とも待て。――立ち騒いで鎮まらぬと、ふたりともに、成敗いたすぞ」

鍔の鳴る音。

ぱらりっと、駕のタレが、刎ね上がった。

羅門塔十郎その人であった。

鮑売り

「来い」

塔十郎は、どぎもを抜かれた繁と安へ、こう顎を引いて、

「――来い、仲直りをしてとらせる」

と、先へ雪踏を鳴らして、歩き出した。

「どうしよう兄弟」

「成敗するって言ったぜ」

ふたりは、醒めた顔を見あわせた。