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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

薊の毒舌

――では玉枝、ずいぶん気をつけて行くがよいぞ」

「玉枝どの、お名残惜しいが、それではここで……」

小禽の声。雨のような朝の光線。

人の姿は霞んでいる。

国家老の大村郷左衛門と主水の父子であった。そして、まだ朝まだきの裏門から送り出されて出たのは、昨日、この山荘に着いたばかりの女客――女の密使――人間の指を入れた小筥を持ってここを訪れた怪美人玉枝であった。

玉枝は、昨日と同じ旅装いに、杖、菅笠を片手にして、

「お別れいたしまする。それでは、郷左衛門様にも、主水様にも、ご機嫌よう……」

「ム。次の吉報を待っておるぞ」

「はい、きっとまたすぐに、指を入れた小筥をお送りすることになるでしょう」

ニッと意味ありげな笑靨をつくって、そのまま、二人に別れて歩み出した。

道が、山陰に曲がる時、玉枝は、もういちど含月荘の方をふり顧って見たが、大村父子の姿はもう見えなかった。

「……そうだ、同じ道を歩いて戻るのは智恵がない。きょうは、この四明ヶ岳から峰づたいに、大文字山の裏を通って、三井寺から大津へ抜けて見ましょう」

独り語に、こう呟いて、山の空を見上げた。

つうッと、色羽ネの矢のように、小鳥の尾が、碧い空から谷間へ掠ッて行く――