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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

陽がのぼる。陽炎が立つ。

旅は、朗らかであった。

西――一乗寺より白河を経て京都へ。東――叡山道を越えて大津東海道口に至る。

所々にある道標の石をたよりに、彼女は、中山越の峰にかかった。

「オオ! 佳い見晴らしだこと」

だいぶ登って来たので、冠り手拭いの下のおくれ毛が、花の露ほど、微かな汗を含んでいた。

ほっと、深い息を吸い入れながら、彼女は、風に向って、眼を細めた。――その眼は、何かを笑っているように。

すると!

うしろの灌木の葉がガサッと動いた。――ぎょッとして、振り顧った玉枝の眼は、そこから躍り出した男を見るや否、

「あっ! いけないッ」

と、叫んだ。

ほとんど、倒れんばかりな驚き方だった。

ぽーんと、男の影へ向って、菅笠と杖とを投げつけるが早いか、狼狽して、ざざざッと、道もない崖へ逃げ下りた。――いや! 転げ落ちたと言った方がいいくらいに。

その上から、びゅッと、烏蛇のような、黒い捕縄が躍ッて行った。

「玉枝ッ――御用だ!」

男は、波越八弥であった。

「あッ」

玉枝の体は、崖の中腹に転がっていた。猟師のように、跳びかかッて行った八弥は、欣ばしさの余り凱歌をあげて、