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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
「痛いッ、手をゆるめておくれよ」
「何を言やがる、痛えのは、あたりめえだ。……おい、はやく来い」
「親方、どうします、こいつの死骸は」
「魚の餌にしてしまえ」
「合点。――水葬式」
と、新七の死骸を抛りこんで、
「舟は?」
「舟もそのまま突っ放してしまえ」
「もう一匹、ヘンな男が、まっ先に海のなかへ逃げこんだが、どうしやがったか、浮いて来ねえ」
「ム、下男みてえな男か。雑魚だろう」
「じゃ、ぶんながしますぜ、この舟は」
と、自分たちの舟へ返って、突き離した。
と、主のない血まみれなその小舟が潮に乗って流されてゆくそばに、ぽかりと、西瓜のような物が浮いた。ふたつの人間の頭である。ひとりは、一人の体を、横にかかえて、水のなかから手をあげながら、
「――やあい。何してやンでい」
と、潮を吹いて呶鳴った。
「あ。千吉だ」
「待てやアい」
あわてて、漕ぎよせてゆくと、千吉とよばれた若者は、
「はやく綱を抛れ、綱を。いやに、落着いていやがる」
「船頭のくせに、弱音をふくな。こっちだって、大仕事があったんだ」
「いくら、稼業が稼業でも、そう永く、水の底にゃつづかねえ。それに、生き物をかかえているんだ」