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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

老先生の機智は、矢文の方も、これも、二つながら成功した。加山耀蔵のからだから解いた縄は、そのまま、玉枝を縛るものに使えた。舟辰と、若い船頭三人に捻じ伏せられては、彼女も、どうすることもできない。観念の眼をふさいで、自由になっていた。

すると、そのなかの千吉が、棘にでも触れたように、

「オヤッ?」

と、手を引っこめた。

「なんだ? 千吉」

「親方、ふしぎなこともあるもんですね」

「どうして」

「この女、左の手を見ておくんなさい。――烏爪だ、あっしの妹のお半と同じだ。お半の小指の爪も、お鉄漿を染めたようにまっ黒なんで、奇妙な生れつきだと思っていたら、この女にも、同じ爪がある」

「ウム……なるほど」

「妹も、こんな毒婦にならなけりゃいいが」

「あの娘はやさしいから、なれと言っても、こんな不敵者になるはずはねえ。今は、家かい」

「いえ、……お恥しいわけですが、ちょっと、事情があって、この春から柳ばしのお紺姐さんの家に、仕込みに預けてありますんで」

「ヘエ、じゃ、雛妓にしたのかい。……それやかえっていいだろう、今のうちから、柳ばしの水で洗い上げれば、さだめし、江戸前の芸者衆になるだろうよ」