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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
――キャッと、耳を劈いたあの絶叫、あの人間の断末の知らせ。
「しまった!」
老先生は、地だんだを踏んだ。――今。彼女の一命に、もしものことでもある場合には、永遠の闇に、この事件の心臓は活動を停止してしまうほかないのである。
「――ちぇッ、先手を打たれた」
と、老先生が、慌てたのも、決して無理ではないのである。事件の鍵とする「二つの問」は、まだ、花世の口から語られてないのであるから。
しかし、僥倖にも、彼女は助かった。彼女はもう寺の一室へはいって、一心に、「二つの問」の答えを書き綴っていたのである。
そのかわりに、墓地の下の日蔭で、手づかみで、めんつうの残飯を食べていた一人の女乞食は、その背に、一本の小柄を突きとおされて、血を吐いて、死んでいた。
「やッ、親方。人が死んでる!」
「また死人か」
「女乞食だ」
「おや、たった今、殺されたばかりのようじゃねえか」
「山門をはいってくる時に、ギャッと、いやな声が聞えたと思ったら……これだ」
「でも、老先生でなくってよかった」
と、舟辰は、ほっとしたように、胸をなでおろした。連れているのは、店の若い者――船頭の千吉だった。