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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
あの怪美人の玉枝と、瓜二つの花世である。
またしても耀蔵は、妙な疑惑に囚われて、茫然としてしまったが、舟辰や、他の若者たちの話を聞くと、花世は、昨日も今日も、一歩も寺から出たことはない。ああやって、方丈の窓の下で、机に倚ったままだというのである。
すると、玉枝は?
耀蔵は狼狽した。
「女狐め! また一杯食わせたか」
いいながら、山門の方へ、駈け戻ろうとした。
すると――江漢老人の声だった。
「加山。もう駄目じゃよ」
「あっ、老先生、いつの間に」
「玉枝は、山門の側の、楠の木蔭に隠れていて、お前がまっしぐらに境内に駈けこむと、風のように、自分のほんとの塒へ、飛んで帰ってしまったんじゃ」
「や、や。そんな次第でございましたか」
「だが、慌てるには及ばん。どうしたかと、只今、佐渡平の店へ寄ってみたところ、云々と聞いて、まずよしと、その足でこの寺におる花世の安否を見舞に来たのじゃ。花世も、今宵かぎり、ほかへ移すことになっておるのでな」
「残念です。どうも、不覚をいたしました」
「なに、よいわ」
と、老先生は、決して部下の罪を深く咎めたことがない。
「それよりは、例の小箱は」