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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
星夜潜行
そうなると、いくら隠遁の身でもなかなか忙しいから、これはひとつ、八丁堀にいる捕物の上手、岡倉鳥斎を抱きこんで、あれに頼んだらどうだ」
「その岡倉殿は、数ヵ月まえに、幕府のおいいつけに依って、蝦夷松前の漁場公事のお調べに出張中でございます」
「ハハア、そうかそうか、そんな噂だったな。では? ……」
と老人、しばらく眼をふさいで考えていたが、やがてある人間を思いうかべたらしく、
「む、ちょうどいい人物がある。あれならば、年は若いし、頭脳はすばらしくよいし、決してこの江漢にも負けはとらぬ名捕手と思う。わしが推挙すれば、彼よりほかはない」
と口を極めて、賞めた。
南、北の両奉行のうちで、今、老先生にも負けをとらない名捕手とはいったい誰であろうか、と東儀与力は、首をひねった。
星夜潜行
達眼は達眼を知るという。江漢老人の眼識で見て、あれほどに賞める人物ならば確かなものであろう、と東儀与力は、はやくその誰であるかを聞きたい気もちに駆られた。
「だが東儀、それは江戸詰の人間ではないぞ」
「や、それでは困りますな」
「なに困りゃせん。折よくも彼は、永らく公暇をいただいて、目下東都へ遊歴に来ておるんじゃ」