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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

「汝が生涯の智恵をしぼって劃策した悪の大事業は、なんの因縁か、名月の晩にはじまって、名月の晩に崩れた。敗軍の将兵を語らずというから、その口では申されまい。この江漢がすべての魂胆を割ッて申そう」

「ウーム」

と、羅門は蒼白になって、全身をぶるぶると顫わせながら、ただ、呻くばかりだった。

「聞け! 花世」

老先生は、やさしく、声を落して、雪のかたまりのように、坐っている、花世に向って言った。

「まるで、お前の分身のように、瓜二つに似せて、悪の手先になって働いていた玉枝という女は、あれは、故意に、そなたの姿や顔に似せて、作り化粧をしている妖女だ。――なぜそんな真似をしたろう。それはおまえが真の龍山公のお血統であるからだ」

「えっ、私が、私があの……」

「おう、そなたは、自分の爪を見るがよい。また、亡き養父の五百之進殿の日記を後で検めてみるがよい」

花世はわッと泣き伏した、なぜかなぜか、いっさんに、悲しさがこみ上げて来たのである。自刃した父の気持が、余りにも強く、余りにはッきりと、胸を衝って衝って熄まないのであった。

老先生は、厳かな語調をついで――

「しかも、そなたのほかの姉妹は、三人とも、皆この悪魔の首領、羅門塔十郎のために殺められた。