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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
寝ているところを揺り起されて、牢鞘の外へ引っぱり出された唖男は、きょとんとした顔で、
「? ……」
東儀与力の顔を、顔負けがするほど、じいっと、見ている。
放免状を読んで――といっても形式だけであるが、手真似と表情とで、牢を出して帰宅をゆるすからどこへでも行け、という意味を呑みこませてやる。
が――唖はうれしそうな顔もしなかった。
張合いのないこと夥しいが、こっちには計画があるから、予定を運んで、召捕った時に、彼が持っていた穢い財布――むろん沢山ははいっていないが――それと叺の煙草入れ、鼻紙などを、返してやる。
それで唖も、やっと少しわかったらしく、ぺこんと一つお辞儀をして、伝馬牢の裏門から突き出された。
さて、どこへ行くだろう?
老先生の妙智、果たして中たるかどうか。――と東儀与力も気が気ではないのである。だが、その姿のまま、後ろから尾いてゆけば、加山、波越のふたりの潜行に邪魔をするようなものだから、いったん門を閉めて、雨水溜めの天水桶を踏み台にして、高い塀の上にすがり、首が生えたようにして、見送っていた。
「ウム……紙屑屋の加山がうまくからんで行くな。