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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

以後はきっと気をつけろ!」

と、どこまで、部下のせいのように、加山と波越を叱りとばした。

「おはよう。――南町奉行所の東儀殿はここへ来ておられますか」

客の来べきところでない暗黒な血の家に、朝の明るい客の訪れ。

誰かと思って出てみると、ふし糸の茶無地の羽織に、ひだのきちんと通っている袴をはき、朝、梳いて来たばかりらしい水々とした髪に、浅黒い、そしてつややかな面、眉眼くちびるに至るまで、何となく非凡な風格をそなえた三十歳前後の武家。

「やっ、貴方は」

「拙者は、お奉行榊原主計殿のご懇望もだしがたく、若輩の烏滸がましいとは存じながら、ご助勢に参った、羅門塔十郎と申しますもの」

「オオ、では貴殿が、有名な羅門氏でござったか」

「拙者がおひきうけをして、浅学ながら口出しをする以上は、一命を賭しても、必ず処理してごらんにいれるが、そもそも、江戸流の捕物術と上方流の捕物法とは、根本から手ぐちの違うところがござるが、その辺もご異存なくご服従くださるであろうか」

「それはもう、ご方針のままに。――吾々にもよい後学に相成りますから」

「では、ご免――」

と、草履をぬいであがるとすぐに、羅門塔十郎のするどい眼は、もう何ものかを観破したように、ぴたっと、部屋の一隅に吸いついた。