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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
「では、申してみるが、鷺江ゆき女の死体はまだ奉行所に保存してありましょうな」
「十五夜の晩以来、だいぶ日数は経っておりますが、証拠がためのつくまではと、工夫を凝らして、死体蔵にとってあります」
「日本橋の薬研堀に、平賀鳩渓が長崎から招いた岡本亀八と申す人形師の住んでおるのをご存じか」
「あ。あの蝋細工の亀八で」
「そうです。その亀八に雪女の死体を見せて、同一の死人形を亀八独特の蝋細工にて作らせ、折からちょうど平賀鳩渓が神田のお火除地に於いて博物会をひらく催しがありますから、その会場の一隅に出陳して、これを広く世間の人々に見せるのです」
「ははあ。では奉行所内の極秘な物を、世上へ公開いたすことになるが」
「さ。そこが江戸流と上方流の相違なのです。拙者の流儀で行くならばむしろそれが世間の評判になるのを欲する。そして、博物会の会場に目明しを紛れ込ませ、当日蝋人形の前に立ち寄る見物の噂や囁きに注意させるのです」
「成程」
「評判が高くなれば、鷺江お雪の門人たちも、それとなく見に来るであろうし、第一彼女を殺害した下手人が気にかかって、見にこないではおられぬと思う。これは、上方では幾度か試みているが、いつも奇功を奏している事です」