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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

席は、愛縄堂で、あの悪像を回向し、その後で酒もよし、三味もよし、席画もよし。

老人に指導をうけた八丁堀の若手や、難事件に墜ちて手にかかった人々などが、相談をまとめてから、この話を、鶉坂へ持ちこんだ。

「なんじゃ、捕縄供養とは?」

「前例のないことですが、老先生のようなお方も、前後に珍しいことですから」

「で、どんな事をするというのか」

「こちらの愛縄堂を拝借して、名月の夜は、心ある者が集り、あの老先生の手彫りの悪霊どもを供養しまして、序ながら、ご隠退を惜しみたいと存じますので」

「でも、わしはもう、とうにお役退きをしておるンじゃ」

「けれど、世間では、こんどのご普請で、初めて老先生のお覚悟をはっきりと知ったのですから、古いお馴染がいに、一夕ぐらい、ゆるゆると、お膝を合わせて語りたいと熱望しております」

「そうか。……じゃ皆のよいように、やって貰おう」

拒みかねて、老人も遂に、任した。

やがて、案内状は、知人の間へ配られる。そして間もなく、捕縄供養のその日が来た。

仲秋の名月――八月十五夜。

実にいい月であった。盛会であった。

しかし、この晩! ああこの晩!

彼が、塙隼人の若い時代から、多年の間、十手にかけ、捕縄にかけて、獄門台へ罪人を送るごとに、一体、二体と刻んで来た無数の手彫の悪像どもが、こぞって祟りを初めたのだろ